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ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」

平凡社 2009-07
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業界もそろそろ恒例の終戦商戦が始まったが、今年の一発目は結構当たりだった。広島に比べて長崎の影が薄いのはなぜか。広島の方が先に落ちて、被害もより大きかったと言えば、それまでなのだが、広島が官民一体となった運動で「象徴化」に成功したのに対し、長崎は今ひとつ盛り上がりに欠ける。特に広島は原爆ドームという「世界遺産」があるが、長崎には世界に名だたるシンボルもない。しかし、かつて原爆ドーム以上に世界にインパクトを与えうる可能性があったシンボルが長崎にあった。言うまでもなく浦上天主堂廃墟である。戦後、長崎市長となった田川務はその保存に努めるが、アメリカのセントポール市と姉妹都市締結のため渡米し、帰国後にその態度を一変させ、教会再建を理由に廃墟は取り壊されてしまう。というストーリーをなぞれば、アメリカが教会の廃墟という、キリスト教世界に衝撃を与えかねない遺物を撤去させる工作を打ったという見方をするのは自然だろう。たしかにCIAが絡むなど、そうした意図に沿った流れがあったことは間違いなさそうだが、単純にアメリカが自分たちに都合の悪いものを隠蔽したというのとは訳が違う様だ。その辺は著者の熱心な取材で明らかになるのだが、ノースウェストの日本就航が関係していたり、姉妹都市締結コンサルタントの暗躍などもあったりする。そして見逃せないのが。日本側の事情であって、長崎市長の広島に対する誹謗ともとれる発言には驚かされる。最近の久間や襲撃された本島市長発言以上に今だったら問題となりそうなものである。こうしてみると久間発言は地元では一定の理解があったものだったのかという気もする。著者は永井隆の犠牲者は「神に対する捧げもの」という主張を非キリスト教徒を犬死に扱いしてると批判するのだが、港長崎ではなく、キリスト教徒の多い浦上地区に落とされたことを天罰と揶揄する向きも地元にはあったらしい。欧米では廃墟となった教会は特に珍しい存在ではないという仏人の意見も紹介しているのだが、米軍が浦上天主堂に特別な意味を見いだしたとすれば、それは爆心地における物理的影響を示す物質の回収ではなかったかと推測する。著者は長崎出身だそうだが、原爆はさしたる関心事ではなかったそうだ。そうした原点があったからこそ、原爆に対しても客観的な視点が保たれたのであろう。

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